■カジノが日本で解禁されるとギャンブル依存が増える?

IR法案という聞きなれない名前がテレビや新聞で聞かれるようになりました。これはカジノを含む「統合型リゾート施設(IR)」整備推進法案(カジノ解禁法案)といいますが、これについては是々非々いろんな意見が交わされています。

ある人は「ギャンブル依存の問題を解決していないのに、このIR法案が通過してしまうのは危険だ」ある人は「シンガポールでは外国人のみ無料でカジノを利用できて、国民からはエントリーフィーをもらうようにしているから上手くいってるんだ」、等々いろんな賛否両論ですね。
わたしは政治的な話はここでは語りません。

ただ
ギャンブル依存をどう解決するのか?
ギャンブル依存はどうしたら治るのか?
ギャンブル依存の人を増やさない為にはどうしたらいいのか?
等々についてお話していきたいと思います。

■ギャンブル依存とはどういうものか?

まず、ギャンブル依存とはどういうものなのか?少し説明したいと思います。

パチンコやスロット、競馬、ボート、競輪など、最初は娯楽で楽しんでいたはずが、金銭を賭けることによって勝負感が強くなり、勝つと高揚感や恍惚感を得るのですが、いったん負けると掛け金を失ったという敗北感や焦燥感に支配され、また一時的に勝ったときの高揚感や金銭を取り戻そうとやっきになり、どんどんハマって自分でも止めようとしてもやめられない、まさにコントロール不能の状態が依存状態です。

これが悪化してしまうと借金を繰り返し、借金ができなくなると、会社のお金や家族のお金を使い込み、最悪の場合は自殺や窃盗や強盗など犯罪にまで手を染めてしまう人もいます。

ギャンブル依存症の人の多くは本人も苦しいのですが、それよりも周りの家族や関係者に苦しみを与えていることが問題なのです。一人の問題では済まないケースがほとんどなんですね。

■じつは日本はギャンブル大国?

このIR法案でいま騒いでいますが、日本は立派なギャンブル大国だと言われています。その証拠にどんな田舎にいっても田んぼの真ん中にどーんとギラギラしたパチンコ店があることに驚きます。それだけニーズがあるから存在しているわけですね。

そして、多くの人が勘違いしているのは、ギャンブル自体は法律違反でもなく犯罪でもありません。立派な娯楽なんです。だからパチンコをすることや競馬に興じることギャンブルイコール悪ではないのです。適度に楽しんでいればただのゲームという娯楽でありしかも合法です。

だからそれらの娯楽として気分転換程度にただ楽しんでいればいいのですが、それが生活を破たんさせ、人格を破たんさせ、家族や人間関係を失い、人生を破たんさせていくという、ギャンブル依存症と言われる状態になっていくわけです。

■問題はギャンブルを止めさせることではない

ではどうやってギャンブル依存から脱することができるのか?についてお話しします。

もしギャンブル依存者が心理セラピーに来られた場合は、私はギャンブルそのものを本人から取り上げるようなやり方はしません。それをやっても意味がないからです。ギャンブルに焦点を当てるよりも大事なことがあるからです。それはなぜその人がこんなにギャンブルに依存するようになったのか?そのプロセスにまず注目するでしょう。

先ほども述べたようにギャンブル自体はただのゲームであり娯楽であります。適度に楽しめば「ああー楽しかったーああースッキリしたー!」ですべての人に害があるわけではないのです。だからギャンブル依存症を増やすからギャンブルを廃止しろという議論は、問題の焦点がズレてしまっているだけでなんの解決にもなりません

問題はなぜその人が自分を見失うまでに飲める込んでしまうのか?に焦点を当てるべきだと私は考えます。その根拠を次にのべます。

■高揚感や恍惚感や至福感を得るために

ギャンブルで大勝ちしたとき、脳から快感ホルモンとか報酬系とか脳内麻薬ともいわれる脳内物質のドーパミンが大量に放出され、恍惚感や高揚感や至福感が得られるといいます。これが欲しくて欲しくて中毒状態になるわけです。しかもこれって薬物依存やアルコール依存の方とまったく同じなのです。気持ちいい高揚感や爽快感が得られて物事を行うモチベーションも上がるので、一度その状態を経験するとシラフではいられなくなり、その感覚をもう一度手に入れたくてやめられなくなってしまうのですね。

芸能人の薬物中毒が話題になりますが、作曲などの創作活動の意欲を駆り立てるために薬物を使っていたりするわけです。そういう物質に頼らないといけないと強迫的に依存してしまうというのは、もっと根本にある心理的な問題が潜んでいる可能性があります

そこをきちんと見つめない限りは、ギャンブルそのものから遠ざかったところで、お酒やたばこや薬物や買い物など別のものに依存先を変えるだけになってしまうのです。だからギャンブルをやめさせようと依存者からお金を取り上げたところでなんの解決にもならないというのはそういうことです。

そして、ここが大事です。
ギャンブルをしているとどんな感覚や感情を得られているのか?

あるいは、これも大事です。
ギャンブルにのめりこむことによってどんな感情を「感じないで済むのか?」
です。

■快感や高揚感を得ることで誤魔化されるネガティブな感情

先ほどはドーパミンを得られる快感が中毒性を引き出すという話しをしましたが、逆にその高揚感や快感を得ることで「ある特定のネガティブな感情」から逃れられるという側面もあるのです。そのネガティブな感情や感覚とは「悲しみ、怒り、恐怖、孤独感、無価値観、不安」です。これらのイヤな感情を感じることは死ぬほど怖くて不安で耐えられない、という場合は、依存症になりやすいといえます。

その感情はネガティブといわれて忌み嫌われる感情ですが、人間である限りだれでも持っている普通の感覚や感情です。それを徹底的に自分の人生から排除して感じないようにするためのツールとして、人間関係やギャンブルや薬物やアルコールや買い物をすることで、一時だけの至福感や幸福感や高揚感を得てごまかそうとしているわけです。もちろん、無意識にですが。。。

だからこれらの依存症の解決にもっとも重要なものは、その触れたくない排除したいネガティブな感情をきちんと認めて見つめていくことが重要なのです。

しかし、日本人はどうしても感情に触れるということが超苦手な国民です。感情というものを表すことは恥ずかしいことであり、他人の前でも感情を出すことはいけないことだと教育されてきた民族です。だから解決するには時間がとてもかかります。そして何よりも本人が変わりたい、という気持ちが必要なのですが、本人よりも家族が困っているので家族が本人を変えたがるのが実情です。人は変えられようとすればするほど、激しく抵抗する生き物です。そうすればするほど、治療はより困難を要するでしょう。

■依存症の多くがトラウマ経験者

これは私の過去12年間のデータからわかってきたことをお話します。

アルコール依存症、ギャンブル依存症、人間関係依存症、恋愛、セックス依存症、薬物依存症、買い物依存症など多くの依存症の方々に共通してみられるもの、それが幼少期に重大な心の傷「トラウマ」を負っているケースが非常に非常に多いこと、です。

それは虐待も含まれます。虐待といっても肉体的に激しく叩かれたりしたわけではないから私はトラウマがない、と言う方もいますが、両親が口汚くののしり合う姿をいつも見ていたり、物を投げ合う姿や、両親が激しく殴り合う姿を見ていたり、あるいは自分自身がまったく誰からも見られていない完全無視(ネグレクト)や、両親とも仕事に忙しくていつも家に置いていかれる孤独感や絶望感や不信感を常に味わっていたり、親戚や施設に置き去りにされたり、近親者からの性的虐待を継続して受けてきたり、そのような愛情や承認を得ようとしても得られなかった大きな心の傷が依存症に走らせる大きな原因のひとつなのだと確信しています。

これらの心の傷を見ずして、依存症の方からアルコールやギャンブルを排除しようとしてもいかに無駄なことなのか?おわかりいただけるかと思います。

■依存症解決のカギは心の問題解決である

依存症解決の早道は心の問題解決、とくに未解決の親子の愛情問題の解決である、と私は信じて疑いません。

心理セラピー、リトリーブサイコセラピーで過去に来られたお客さんの中に意外と多いのが、心の問題解決をしにきたのに「気が付いたらお酒の量が激減しています!前は朝ビール一本、ランチにビール、夕食も寝る前もずっとビールばかりでした。私はもしかしたらアルコール中毒だったのかもしれません…」というケースです。

本人が母親との共依存や夫婦問題や人間関係依存に悩んでそれらの問題解決を進めていくうちに、自分の不安や恐怖や悲しみを解決して楽になっていったら、お酒をほとんど飲まなくなっていったという女性がいかに多いことか!これにはほんとに驚きました。うれしい副作用だったのです!これはギャンブル依存症も薬物依存症も同じなのです。

刺激でドーパミンを無理やり出さなくても、心から楽に生きられることが出来るようになれば、お酒もギャンブルも適度に楽しむということが出来るようになるわけですね。

また、興奮を引き起こす刺激性の強いドーパミンを抑えるためには、逆にセロトニン(興奮を押さえ感情を安定させる神経伝達物質)を出すような生活をすればいいわけです。だからリラックスする時間を取ること、自分の身体や心の内側に意識を1日一度でもいいから向けてみること、携帯やテレビや情報から一瞬でもいいので遠ざかること、瞑想をして心を整えてみたり、リラクゼーションマッサージを受けるのもいいし、温泉でリラックスするのもいいでしょう。それでも恐怖や不安がいつもつきまとうという場合はなんらかの幼少期のトラウマが関係しているかもしれません。そういう場合は我々のようなプロの心理セラピストを活用していただければと思います。

過去のセッション経験からクライアントにいつも教えられています。感謝。

2016.12.13    カズ姐さん